消費の個人主義化は、ある意味では消費の民主化と言い換えることもできる。そ の結果生ずる、ものの個 人所有は、所有の民主化だといえるかもしれない。また、 所有の民主化は、個々人をますます(注1)ばらば らの存在にしていく。(中略)もの によってしきりができるからだ。ひとつの道具を(注2)共有することは、の好 むと好 まざるとにかかわらず、共有しているメンバ-との集団的なつながりが形成される。 「平等な消費」と
いう思考は、{1}個人の欲望にしたがった消費を許すということ で、それは集団主義(全体主義)から個人主 義への流れを強化していった。こうし た傾向は、社会的な共同体たけではなく、家庭にまで及んだ。{2}それ は、さまざま 名もののデザインによても見ることがでるる。多くのものが、集団で使うことよ りも個人で使用で きるようなデザインになっていった。小型のラジオや電話は、(注3) パ-タブルになった結果、その使い方が
変化したが、それだけではなく、使用者 を個人化したのである。 携帯電話の出現は、家を単位としていた{3}電話の概念を根底から変えてしまった。 電話の(注4)子機の段階では、家の電話とつながりを待っていた。携帯は家とのつ ながりをしきってしまったのである。携帯電話の持ち主がはたして住居に住んでい るか どうかもわからない。 電車やバスなとの公共交通機関の中では、携帯電話の使用の禁止を呼びかけている。心臓の(注5)ペ-スケ-カ-に悪い影響を与えるからと呼びかけているが、禁 止についての明確な理由はあまり説得的ではないようだ。結局、多くの携帯電話使 用者は、電話による会話ではなく、メ-ルを使うよう になった。({4})携帯電話で コミュ-ニケ-ションしていることには変わりない。どれほど、多くの他人に囲まれ ていようと、携帯電話を使った会話にしろメ-ルにしろコミュニケ-ションが始ま ると、意識は電車やバス の中にあるのではなく、(注6)ネット空間の中に入り込ん でしまう。どれほど、多くの他人に囲まれていようと、{5}そこにいる他人とは全く 異なった空間の中にしきられているのである。 はたして、そのことと関連するか どうかはわからないが、携帯電話の普及と同時 代の現象としてよく見られることになったのが、電車の中で、女性が(注7)メイク アップをしている光景だ。それまでは、メイクアップは他者には見せないものであ った。し かし、電車の中にあって、メイクアップをする女性たちは、意識的には、 他者とはまったくしきられた空間にいるである。{6}ちょうど携帯電話でコミュニケ -ションしているときと同じように。 {7}家庭内の個人主義的傾 向は、日本では1980年代に(注8)顕著になった。住宅の デザインは、子どもの個室を待つことが一般的にな り、子どもの個室には電話や(注9) 音響製品などが置かれ、(注10)自足したものとなった。個室や電話や(注11) 家電の(注12)パ-ソナル化によって、家族の人間関係が(注13)希薄になり(注14) アトム化がすすんだ、という意見が語られてきた。家族が個人主義化することを、 個室やパ-ソナル化した家電や家具類の デザインが促進したことは否定できない が、そうしたもののデザインは、集団主義から個人主義へと向かうわ たしたちの近 代に(注15)内包されていた傾向を反映しているのである。
(注1)ばらばらの:別々でまとまりがない
(注2)共有する:共同で所有する
(注3)ポ-タブルになる:持ち運びでるる大きさ*重さになる
(注4)子機:電話機本体に付いていて家の中で持ち歩ける電話機
(注5)ペ-スメ-カ-:心臓の動きを非常に保つための機械
(注6)ネット:インタ-ネット)
(注7)メイクアツプ:化粧
(注8)顕著になる:はっきりと目立つようになる
(注9)音響製品:音楽や歌を聴くための製品)
(注10)自足する:ここでは、必要なものがすべてそろう
(注 11) 家電:家庭用電気製品
(注12)パ-ソナル化:ここでは、個人用になること
((注13) 希薄になる:ここでは、弱いなる
(注14)アトム化:孤立化)
(注15)内包されている:内部に含まれている